若い人達にもお茶を楽しんでもらうための伊藤園のECリニューアル。流入・売上・リピーターにも貢献した訴求。

メルカート , 定期購入
緑茶飲料の圧倒的トップシェアを誇る「お〜いお茶」をはじめ、「健康ミネラル麦茶」、「TEA’s TEA」、「充実野菜」など数々のヒット商品を手掛けてきた1966年創業の飲料メーカー、伊藤園。豊富な商品ラインナップの中でも、特にこだわっているのは祖業であるお茶で、茶葉づくりから加工、販売に至るまで自社で管理を行っているという。
今回のインタビューでは、厳選のリーフ(茶葉)を販売するECサイト「TEA SHOP ITOEN」のリニューアルの背景や今後の展望について、特販営業本部 専門店部 第一課課長の別府寛さんと、第一課店長の長谷川綾子さんに聞いた。
基本情報
<社 名>
株式会社伊藤園
<設立年月日>
1966(昭和41)年8月22日
<事業内容>
茶葉(リーフ)・飲料(ドリンク)の製造・販売
<従業員数>
5,409名
<資本金>
19,912,300,000円
<所在地>
〒151-8550 東京都渋谷区本町3丁目47番10号
リーフ(茶葉)を販売するEC「TEA SHOP ITOEN」
――はじめに、御社のECサイト「TEA SHOP ITOEN」で販売されている商品について教えてください。
別府:TEA SHOP ITOENはリーフ(茶葉)を中心に取り扱うECサイトです。日本茶、抹茶、中国茶、紅茶、ルイボスティーや黒豆茶などの健康茶関連を販売しているほか、お茶を抽出するときに使うボトルやポット、タンブラーなど、お茶を楽しむための茶器やお茶請けのお菓子も揃えています。商品数は季節などで変動しますが、常時200アイテムが並びます。
――御社は直営店も多数展開されていますが、「TEA SHOP ITOEN」では店舗の商品を全て買えるようになっているのでしょうか?
長谷川:直営店は、日本茶を主に取り扱う「伊藤園」、紅茶や中国茶を販売する「ITOEN TEA GARDEN」、和カフェの「茶寮 伊藤園」の主に3つのブランドがあり、TEA SHOP ITOENではこれらの店舗で買える商品は全て買えるようにしたいと考えていますが、昨年12月にリニューアルしたばかりということもあって、現在は店舗の商品の8割程度の品揃えです。今も品揃えを充実させているところです。
――TEA SHOP ITOENはリーフを販売するECということですが、リーフに対する御社のこだわりを教えてください。
別府:伊藤園のこだわりは、リーフの生産から加工、販売に至るまで、全てのフェーズを自社で管理することで、安全性や品質を担保している点にあります。国内荒茶生産量の約1/4以上を占める取扱量と、鹿児島や静岡など全国の茶農家と契約栽培の形態をとっていて、1年間を通じて安定した品質のお茶を提供できる体制を構築しています。収穫したリーフは茶の収穫時期や種類別の成分を考慮しながら、形や重さごとに丁寧に分別し、弊社独自のノウハウで焙煎を行います。このようにしてつくった商品を適性価格で、店舗やECなどさまざまなチャネルで販売できるところが弊社の強みだと考えています。
価格訴求ではなく、「価値訴求」ができるECを目指して
――ここからは「TEA SHOP ITOEN」のリニューアルについて教えてください。このECはいつからスタートし、今回はどのような課題や背景があってリニューアルすることになったのでしょうか?
長谷川:TEA SHOP ITOENは6年前に「直営店と連動した新しいチャネルを開拓しよう」という目的でスタートしました。弊社のECにはTEA SHOP ITOENとは別に「健康体」もありますが、そちらは名前の通り、機能性訴求食品や特定保健用食品など、健康を訴求する弊社の商品を取り扱っており、TEA SHOP ITOENとは立ち位置が明確に異なっています。
別府:TEA SHOP ITOENのリニューアルの話が出たのは2017年の終わり頃で、課題として挙がっていたのは「店舗と連動するだけでは弱い」ということでした。そこで仕切り直して、新たな商品やコンテンツを打ち出して、お客様に楽しんでいただけるサイトにしようと考えたんです。さらに、若年層への訴求も課題としてありました。リニューアル前は日本茶を日常的に飲んでいる30〜50代がメイン顧客層でしたが、リニューアル後はより若い人達にもTEA SHOP ITOENを通じてお茶を楽しんでもらえるようにしたいと思いました。
――その課題を解決するために、どのようにリニューアルを設計していきましたか?
別府:これらの課題をふまえて私たちが掲げたビジョンは「お茶の香りが伝わるEC」です。実際はECなのでお茶の香りがするわけではないのですが、表現や文章にこだわり、お茶の香りがするようなECにしたいと思ったんです。
さらに、「店舗にはないコンテンツをECでやろう」とチームで話し合いました。とういのも、最近のECは主題が「プライス」になっていて、値段順で表示して買い物をするケースが増えていますが、私はそういうものはつくりたくないと思っていたからです。私はもともとEC事業をやっていたわけではなく、店舗を見てきた人間であり、今は直営店を見ても「価格訴求」ではなく「価値訴求」ができる店舗に人が集まっています。そのため、ECにも“独自の価値”を与えることが重要になると考えました。
そうして出てきたアイデアが「国産希少茶葉」と「オリジナルブレンド」の2つです。
国産希少茶葉は、「黄金みどり」、「足久保やぶきた 浅蒸し」、「富士の百年」など、弊社の原料仕入力の粋を集めてこだわり抜いて選んだ限定数量でお届けできるお茶です。お茶づくりにこだわってきた弊社だからこそできるコンテンツであり、お茶ファンの目に触れることなく眠っている希少茶葉をECで紹介しようと思いました。
オリジナルブレンドは茶葉とフルーツやハーブを組み合わせて、自分だけのブレンド茶葉をつくることができるコンテンツです。他社では既に混ざっている茶葉を売っていることはあっても、自分でブレンドを楽しめる方法はどこもやっていません。
これらのコンテンツを打ち出すことで、直営店と連動するだけのECではなく、独自の価値を打ち出し、普段日本茶を飲まない若い層に対しても訴求できるようになると考えました。
ECの肝であるロゴもecbeingに作成依頼
――リニューアルのビジョンやコンテンツを実現するためのベンダーはどのようにして探しましたか? また、ecbeingを採用したポイントも教えてください。
別府:2018年の頭からビジョンやコンセプトを社内で固めていき、5月頃からベンダーを探しはじめました。候補を絞って3社ほどに相談して、最終的にecbeingさんに依頼することにしたのですが、その理由の1つは弊社の別のEC「健康体」をecbeingさんに構築から運営までやっていただいていて、社員が管理画面を使い慣れていることがありました。
私の中での最も大きな理由は、我々のリニューアルのビジョンを理解していただいて、目指している世界観に強く共感していただいたからです。私たちは「国産希少茶葉」や「オリジナルブレンド」のようなアイデアを考えることはできても、実際にECのコンテンツに落とし込むことはできず、専門家にご協力いただく必要があります。その点、ecbeingさんは我々のビジョンや世界観に強く共感していただいていたので、安心してアイデアの実現を任せることができました。
――実際のリニューアルの過程でこだわった点や苦労した点は?
別府:2018年7月頃からecbeingさんとリニューアルプロジェクトをスタートしました。こだわったポイントの1つは、やはり「国産希少茶葉」や「オリジナルブレンド」のページですね。特にオリジナルブレンドはまだどこもやっていない試みなので、どういう形にするのがいいのか、なかなかイメージを掴むことができませんでした。そのときにecbeingの担当の方と、アパレル関係のカスタムメイドのECなど、自分で選択して合わせていくことができる機能のあるページをいくつもチェックして、検証し、イメージを固めていきました。
もう1つ、大きなポイントは「TEA SHOP ITOEN」のロゴデザインを作成していただいたことです。
弊社には社内デザイナーもいるため、社内でロゴを作成することが多々ありますが、今回はリニューアルのビジョンや世界観を一番理解していただいているecbeingさんにお願いするのが最適だと思いました。完成したロゴは黄金比を用いていて視認性がよく、お茶の雰囲気が一目で伝わるデザインになっています。このロゴを使ったパッケージがお客様に届くため、このロゴを見たお客様がECを思い出して再訪していただくなど、お客様との距離を近づけるためのツールにしていきたいと考えています。
――リニューアル後の変化についても教えてください。事前に課題として挙がっていた若年層への訴求などは実現できていますか?
別府:2018年12月13日にリニューアルして半年が経ちますが、売上、PV、ユーザー数、購入率、全て順調に伸びています。さらにリピーターが増えて固定客になっている印象があります。現状はまだecbeingさんのリピーターを増やすための機能であるCRM+やWeb広告、キャンペーンなどは実施しておらず、集客をやっていくのはこれからの段階ですが、それでも既に良い結果が出ています。
それと以前のデザインは健康体のECと似ていたので、何が違うのかがわかりづらい状況にありましたが、デザインを刷新したことでECと差別化ができて、TEA SHOP ITOENの立ち位置を整理することができたと思います。
長谷川:20代のお客様も少しずつ増えてきている状況です。また、オリジナルブレンドや国産希少茶葉もお客様から好評で、特にオリジナルブレンドは「他にはないコンテンツで、ブレンドして買えるのが面白い」という声をいただいています。
別府:弊社の店舗サイドからの反応もあり、リニューアルしたTEA SHOP ITOENを見た社員から「オリジナルブレンドいいですね。うちの店舗でもフルーツやハーブのブレンドを実演しながら販売したいのでお願いします」と問い合わせを受けることもあります。ECから店舗へ、という流れも生まれてきていますね。
マーケットよりもターゲットを意識する
――今後のTEA SHOP ITOENの展望はどのように描いていますか?
別府:最終的にはトータルでティーライフを提案できるECに育てたいと思っています。もちろんメインのリーフにもさらに力を入れていきますが、お茶を飲むということは、お茶を淹れるための茶器やお茶請けのお菓子など、リーフ以外のものも無視できない大切な存在です。このECにふさわしい茶器やお菓子、テーブルウェアなどの商品開発にも力を入れていく予定です。
――ありがとうございました! 最後に、これからECのリニューアルや新規立ち上げを行う予定の企業に向けて、今回の体験をふまえてアドバイスをお願いします。
別府:マーケットを知ることも大切ですが、「自分たちが何を打ち出したくて、誰に訴えたいのか」というところが明確でないと、どんなに良い仕組みを導入しても難しいように思います。我々も事前にターゲットを「30歳の女性、健康志向があり、トレンドに敏感……」とペルソナをとても細かく設定して、この人に届けるためにはどんなコンテンツが必要かを考えていきました。システムを選ぶ前の段階に時間をかけて、プロジェクトの骨子を構築することが重要でしょうね。
弊社もTEA SHOP ITOENを通して、お茶の文化をより広く深くお客様に伝えていきたいと思っています。今後も改善を重ねていく予定ですので、ぜひご注目ください。
――
株式会社伊藤園
特販営業本部 専門店部 第一課課長
別府 寛(べっぷ かん)
●取材・文:廣田喜昭